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遺産相続・遺言の判例、研究紹介

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判例紹介1遺言書に使用する印には要件があるのか?


1.はじめに

(1)民法968条1項は「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と規定し自筆証書遺言の方式として「押印」を要件としています。

(2)そこで印の形式はなんでもいいか?花押でもいいかが問題と最高裁判例として最高裁平成28年6月3日判決(以下「本最高裁判決」といいます。)がありますので当該判例を紹介しながら遺言書の要件を検討していきたいと思います。

(3)事案の概要は以下のとおりです。
  1. 亡Aには上告人Y1同Y2及び被上告人Xの3人の子がいた。Aは平成15年5月6日付けで自筆証書による遺言書(以下「本件遺言書」という。)を作成しました。本件遺言書の内容はAが「家督及び財産はXを家督相続人としてa家を継承させる。」という記載を含む全文上記日付及び氏名を自書しその名下にいわゆる花押(注)を書いたものでありますが印章による押印がありませんでした。

  2. Aは平成15年7月12日死亡しました。Aはその死亡時に甲土地(以下「本件土地」という。)を所有しAに所有権移転登記がされていました。

  3. 本件は被上告人Xが本件土地について①主位的に本件遺言書による遺言によってAから遺贈を受けたと主張し②予備的にAとの間で死因贈与契約を締結したと主張して上告人Y1及びY2に対し所有権に基づき所有権移転登記手続を求めるなどしている事案です。
       つまり本件の論点はAは本件遺言書に印章による押印をせず花押を書いていたことから花押を書くことが民法968条1項の「押印」の要件を満たすかでした。

  4. そして本最高裁判決は本件花押は民法968条1項の押印の要件を満たさないとして自筆証書遺言を無効であるとし上記①の主位的主張を認容した原判決(福岡高裁那覇支部平成26年10月23日判決)を破棄し上記②の予備的主張を更に審理させるため原審に差し戻しました。

2.本最高裁判決の判示内容等

(1)原判決(福岡高裁那覇支部平成26年10月23日判決)の内容
原判決は「花押は文書の作成の真正を担保する役割を担い印章としての役割も認められており花押を用いることによって遺言者の同一性及び真意の確保が妨げられるとはいえない。そのような花押の一般的な役割にa家及びAによる花押の使用状況や本件遺言書におけるAの花押の形状等を合わせ考えるとAによる花押をもって押印として足りると解したとしても本件遺言書におけるAの真意の確保に欠けるとはいえない。」と判示しAの花押は民法968条1項の押印の要件を満たすとし本件遺言書による遺言を有効としこれにより被上告人Xは本件土地の遺贈を受けたとしてその所有権移転登記手続を求めるXの請求を認容しました。

(2)本最高裁判決の内容
これに対し本最高裁判決は「花押を書くことは印章による押印とは異なるから民法968条1項の押印の要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。そして民法968条1項が自筆証書遺言の方式として遺言の全文日付及び氏名の自書のほかに押印をも要するとした趣旨は遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民集43巻2号45頁参照)我が国において印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。以上によれば花押を書くことは印章による押印と同視することはできず民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。」と判示し 原判決中被上告人Xの請求に関する部分は破棄しXの予備的主張について更に審理を尽くさせるため上記部分につき本件を原審に差し戻しました。

3.若干の感想

   新聞報道等によると本件遺言書は琉球王国の名家の末裔に当たる沖縄県の男性が残したものであるということです。本件花押は書いたものであり印章による押印とは異なることや自筆証書遺言の要件の厳格性を考慮すると本最高裁判決の判断はやむを得ないものとも思われます。
   このように遺言書を作成する際には厳格な要件が要求されますので注意が必要です。
以上

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判例紹介2DNA鑑定で親子関係が否定されると法律上も親子関係が解消されるのか?


1.はじめに

   DNA鑑定で父子の血縁関係がないことが分かれば父子関係不存在確認の訴えを提起し父子関係を解消できるかが問題となった最高裁判決が平成26年7月17日第一小法廷において3件ありました(最高裁平成26年7月17日第一小法廷判決)。
   いずれも夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子の事案ですが3件のうち2件(これらの原審は①札幌高裁平成24年3月29日判決(以下「本札幌高裁判決」という。)及び②大阪高裁平成24年11月2日判決(以下「本大阪高裁判決」という。)である。)はいずれも妻が子の法定代理人として親子関係不存在確認の訴えを提起した事案であるのに対し他の1件(原審は③高松高裁平成25年11月21日判決(以下「本高松高裁判決」という。))は夫が子の出生を知った後1年を経過してから親子関係不存在確認の訴えを提起した事案です。いずれの事案においても親子関係が否定されたのかどうかについてご紹介していきたいと思います。

2.本高松高裁判決についての最高裁判決の内容

   この事案の概要は新聞報道等によりますと夫が子2名とのDNA鑑定を実施したところいずれも血縁が否定されたとして子の出生を知った後1年を経過してから親子関係不存在確認の訴えを提起したというものです(なお妻側は他の男性との性交渉はなくDNA鑑定は信用できないと主張していました。)。
   最高裁判決は夫(上告人)が嫡出否認の訴えについて1年間の出訴期間を定めた民法777条が憲法13条14条1項に違反すると主張したのに対し「民法772条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出子であることを否認するためにはどのような訴訟手続によるべきものとするかは立法政策に属する事項であり同法777条が嫡出否認の訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは身分関係の法的安定を保持する上から合理性を持つ制度であって」憲法13条14条等に違反するものではないと判示し上告を棄却しました(原審の本高松高裁判決及び第1審判決も親子関係不存在確認の訴えを提起できないと判示しています。)。
   この判示は嫡出否認の訴えの規定を設けた趣旨からすれば格別異論のないところだと思われます。

3.本札幌高裁判決及び本大阪高裁判決についての各最高裁判決の内容等

(1)本札幌高裁判決及び本大阪高裁判決の各事案の概要
  1. 本札幌高裁判決の事案は妻が夫と婚姻中に交際相手との間の子を平成21年に出産したが同出産の1年3か月後(平成22年)に夫と協議離婚(子の親権者は妻と定める。)し現在では妻子は交際相手と共に生活をしている状況下において妻が平成26年6月子の法定代理人として親子関係不存在確認の訴えを提起したものです。

  2. 本大阪高裁判決の事案は妻が夫と婚姻中に交際相手との間の子を平成21年に出産したが平成23年に子を連れて自宅を出て夫と別居し(妻の提起した離婚訴訟中である。)同年から子と共に交際相手及びその前妻との間の子2人と同居している状況下において妻が平成23年12月子の法定代理人として親子関係不存在確認の訴えを提起したものです。

(2)各最高裁判決の内容等
  1. 原審の本札幌高裁判決及び本大阪高裁判決はいずれもDNA鑑定により夫と妻との生物学上の親子関係の不存在が明確であること既に子が妻の監護下あるいは妻とその交際相手に育てられている事情が認められ子には民法772条の嫡出推定が及ばない特段の事情があるとして親子関係不存在確認の訴えを適法と判断しました(いずれの第1審判決も同旨)。

  2. しかし各最高裁判決は以下のとおりいずれもほぼ同内容の判示をし原判決を破棄し第1審判決を取り消し上記訴えを却下しました。すなわち本札幌高裁判決についての最高裁判決(なお同判決と本大阪高裁判決についての最高裁判決との違いは括弧内に記載した。)は「民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとしかつ同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照)。そして夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかでありかつ夫と妻が既に離婚して別居し子が親権者である妻の下で監護されているという事情(本大阪高裁判決では当該太字部分が「子が現時点において夫の下で監護されておらず妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情」)があっても子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから上記の事情が存在するからといって同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。(中略)もっとも民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について妻がその子を懐胎すべき時期に既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ又は遠隔地に居住して夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから同法774条以下の規定にかかわらず親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁最高裁平成7年(オ)第2178号同10年8月31日第二小法廷判決・裁判集民事189号497頁前掲最高裁平成12年3月14日第三小法廷判決参照)。しかしながら本件においては甲(筆者注:妻)が被上告人(筆者注:子)を懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。」と判示し本件訴えは不適法として却下すべきであるとしました。
       このように最高裁ではDNA鑑定で親子関係が否定された������をもって法律上も当然に親子関係は否定されるものではないと判断されました。
       なお両最高裁判決はいずれも5人の裁判官が3(多数意見)対2(反対意見)に分かれており多数意見のうち2名の裁判官(櫻井龍子裁判官山浦善樹裁判官)は補足意見を述べいずれも本件のような親子関係の重要・基本的な事項は立法の課題として検討されるべきであるとしています。

4.若干の感想

   多数意見反対意見のいずれに与するかは嫡出推定の制度を重視するか子の生活実態や利益を重視するかによって分かれる大変難しい問題であると思いますが両最高裁判決の事案は反対意見が述べるようにいずれも①夫婦関係が破綻して子の出生の秘密が露わになっておりかつ②子が血縁関係のある父と同居し法律上の親子関係を確保できる状況にあると認められる事案です。このような場合は子の生活実態や今後の子の利益が重視されるべきであり子からの親子関係不存在確認の訴えが認められないと子が血縁上の父との間で法律上の実親子関係を成立させることが永久にできないことになること等の事情を考慮しますと反対意見に賛成したいと思います。
   なお金築裁判官が反対意見で指摘するように家庭裁判所の実務においては当事者間で合意がある場合には家事事件手続法277条(旧家事審判法23条)の合意に相当する審判により嫡出推定を否定する方向でこの種の紛争の解決が図られることが少なくないといわれています(内田貴著「民法Ⅳ[補訂版]親族・相続」(東京大学出版会2004)171頁以下参照。なお札幌家審昭和41年8月30日家裁月報19巻3号80頁参照)。

以上

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判例紹介3遺留分減殺請求権の消滅時効が停止する場合とは?


  1. 遺留減殺請求権は原則1年で時効消滅してしまいます。そのため消滅しないために遺留減殺請求権を行使する旨の通知を出す必要があります。ではこのような通知を物理的に出すことができなかった場合にも一律に時効消滅してしまうのでしょうか?この点について1年経過後も時効消滅しないとした事件具体的には最高裁平成26年3月14日第二小法廷判決(裁判所ホームページ。以下「本最高裁判決」という。)がありますので今回は当該判例を紹介したいと思います。

  2. 具体的な事例としては亡Bの妻X(上告人)がBがその遺産の全てを長男Y(被上告人)に相続させる旨の自筆証書遺言をしたことにより遺留分が侵害されたと主張して長男Yに対し遺留分減殺を原因として亡Bが不動産の所有権等の一部移転登記手続等を求めたところ妻Xの遺留分減殺請求権が時効によって消滅したか否かが問題となった事案において時効期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において少なくとも時効期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは民法158条1項(時効の停止)が類推適用され遺留分減殺請求権の消滅時効は完成しないと判示し当該消滅時効の完成を認めた原判決(東京高裁平成25年3月19日判決)の判断を覆しました。

  3. 本最高裁判決の事案では民法158条1項の類推適用の有無が問題となりました。民法158条1項は「時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときはその未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間はその未成年者又は成年被後見人に対して時効は完成しない。」と規定していますがその趣旨は未成年者又は成年被後見人(以下「成年被後見人等」という。)は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは成年被後見人等に酷であるとしてこれを保護するところにあると解されます(本最高裁判決参照)。しかし本最高裁判決の事案は後見開始の審判がされる前に形式上消滅時効が完成した事案であるので民法158条1項が直接適用される場合には当たりません(つまり同項にいう成年被後見人には該当しません。)。

  4. この点原審(東京高裁平成25年3月19日判決)は「時効の期間の満了前に後見開始の審判を受けていない者に民法158条1項は類推適用されない」として遺留分減殺請求権の時効消滅を認めましたが本最高裁判決はこれを覆し「(1)・・(中略)・・。また上記規定(執筆者注:民法158条1項)において時効の停止が認められる者として成年被後見人等のみが掲げられているところ成年被後見人等についてはその該当性並びに法定代理人の選任の有無及び時期が形式的画一的に確定し得る事実であることからこれに時効の期間の満了前6箇月以内の間に法定代理人がないときという限度で時効の停止を認めても必ずしも時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないとして上記成年被後見人等の保護を図っているものといえる。ところで精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるもののまだ後見開始の審判を受けていない者については既にその申立てがされていたとしてももとより民法158条1項にいう成年被後見人に該当するものではない。しかし上記の者についても法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから成年被後見人と同様に保護する必要性があるといえる。また上記の者についてその後に後見開始の審判がされた場合において民法158条1項の類推適用を認めたとしても時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないときもあり得るところであり申立てがされた時期状況等によっては同項の類推適用を認める余地があるというべきである。そうすると時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において少なくとも時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは民法158条1項の類推適用により法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間はその者に対して時効は完成しないと解するのが相当である。(2)これを本件についてみると上告人についての後見開始の審判の申立ては1年の遺留分減殺請求権の時効の期間の満了前にされているのであるから上告人が上記時効の期間の満了前6箇月以内の間に精������の���害により事理を弁識する能力を欠く常況にあったことが認められるのであれば民法158条1項を類推適用してA弁護士が成年後見人に就職した平成22年4月24日から6箇月を経過するまでの間は上告人に対して遺留分減殺請求権の消滅時効は完成しないことになる。」と判示し上記(2)の点(つまり上告人(妻X)が上記時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあった否か)を更に審理させるため本件を原審に差し戻しました。
       このように物理的に遺留分減殺請求権が行使できるようになるまで時効消滅しないと判断しました。
       なお同旨の判例として不法行為に基づく損害賠償請求権の除斥期間(20年間)に関する最高裁平成10年6月12日第二小法廷判決(民集52巻4号1087頁)がありますので参考にしていただければと思います。

以上

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判例紹介4遺言の検認手続きについて ~遺言書が発見された場合、その場で遺言書を開封していいか~


1.はじめに

   今回は、自筆証書遺言における家庭裁判所での検認手続について、お話しします。自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自署し、これを押印することによって成立する遺言です(民法968条1項)。自筆証書遺言は、最も容易な遺言方式で、費用も要せず、また遺言署の作成事実やその内容の秘匿性を保持できるという利点があります。しかし、遺言書の紛失、隠匿、改変等の危険がある上に、家庭裁判所の検認手続を必要とします(民法1004条1項)。なお、公正証書遺言であれば、公証人が作成し、公証役場で当該遺言所の原本を保管するので、この検認手続は不要となります。

2.家庭裁判所による検認手続等

(1)検認請求
   遺言書の保管者や遺言書を発見した相続人は、相続の開始を知った後、遅滞なく、遺言書を家庭裁判所に提出して検認の請求をしなければなりません(民法1004条1項)。提出先は、相続開始地の家庭裁判所です。
   なお、封印のある遺言書の保管者やこれを発見した相続人は、勝手に開封することなく、家庭裁判所に検認の請求をする必要があります。そして、裁判所で開封することなり(民法1004条3項)、これに反して、開封すると、5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。

(2)相続人の立会いの機会付与
   裁判所書記官は、申立人及び相続人に対し、遺言書の検認期日を通知します(家事事件手続規則115条1項)。但し、検認手続に出頭するかどうかは相続人の自由に任されています。

(3)検認手続
   検認の際、審判官(裁判官)は、出頭した遺言書の保管者や相続人全員に遺言書の原本を順次閲覧させ、遺言書を保管するに至った事情、発見時の状況、筆跡、印鑑についての意見等を聴取するなどして、遺言の方式に関する一切の事実を調査します(家事事件手続規則113条)。

(4)検認手続の終了
   検認手続が終了すると、裁判所書記官は、申立人の申請により「検認済証明書」を遺言書の末尾に編てつした上、契印したものを交付します。また、検認期日に立ち会わなかった申立人・相続人・受遺者・その他の利害関係人に検認がなされた旨を通知しなければなりません(家事事件手続規則115条1項・2項)。

(5)検認の効果
   検認を経ない自筆証書遺言に基づく相続登記申請は受理されず、却下されます(平成7年10月18日民三台4344号法務省民事局第三課長通知)。また、被相続人の銀行預金を解約する場合にも、この遺言書を提示する必要があります。
   なお、遺言書の提出を怠り、検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所以外で封印のある遺言書を開封した者には、5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。但し、これによって、遺言が無効になるわけではないと考えられています。

3.自筆証書遺言の保管制度の創設(民法(相続関係)等の改正に関する要綱案のたたき台より)

   現在、法務省の法制審議会の民法(相続関係)部会で審議中の「民法(相続関係)等の改正に関する要綱案のたたき台(2)」によりますと、自筆証書遺言をした者の申請により、法務局にその遺言所の原本の保管を委ねることができる制度の創設が検討されており、これによれば、当該機関に保管することで、裁判所での検認手続が不要になるようで、注目されております。    検認申立書式や封印ある遺言書の作成方法等、本原稿のより詳しい内容については、戸籍時報2017年9月号当事務所弁護士作成の「身近な家族法の知識(第54回)」を参考にしていただければと思います。

以上

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判例紹介5内縁の夫が死亡した場合において夫所有の家屋に同居していた内縁の妻はその後も居住することができるか


1.はじめに

   新民法では配偶者の短期居住権及び長期居住権について明文化されたわけですが内縁の夫婦の一方が死亡した場合の他方の居住権について規定されていません。そこで裁判ではどうなっているかをまずご説明します。

2.裁判例の紹介(要旨)

①最���裁昭和39年10月13日判決(民集18巻8号1578頁)
   本判決では原判決(福岡高判昭和37年4月30日下民集13巻4号942頁)同様に内縁の妻に居住権までは認定せずに相続人の家屋明渡請求が権利の濫用にあたり許されないと判示したものを追認しました。そして権利濫用の反射的効果として居住が認められることになります。

②最高裁平成10年2月26日民集52巻1号255頁
   内縁の夫婦がその共有(各持分2分の1)する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきた場合において内縁の夫が死亡しその相続人が共有持分2分の1を相続して内縁の妻にその持分2分の1を超える使用利益につき不当利得の返還請求をした事案において特段の事情のない限り両者(内縁の夫婦)の間においてその一方が死亡した後は他方が当該共有不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当であるとして不当利得返還義務を負わない旨判示した。
   本判決は内縁の夫婦間の使用貸借の合意を認めたものではなく共有物の単独の使用収益に関する合意について事実推定を認めたものであると解されます(常岡史子「内縁の夫所有の建物についての内縁夫婦間の使用貸借契約の成立と内縁の夫の相続人から内縁の妻に対する明渡請求」(判例評論633号18頁)。他の共有者である内縁の夫の相続人は共有解消のために共有物の使用分割請求(民法256条)等をすることになると思われます(しかしこの分割請求が更に権利の濫用になる場合もあると思われる。)。

③大阪高裁平成22年10月21日(判時2108号72頁)
   内縁の夫の唯一の相続人(長女)が内縁の夫所有の建物に同人と同居していた内縁の妻に対して建物明渡請求等をした事案において内縁の妻は40年にわたり内縁の夫に尽くし内縁の夫が相続人たる長女のほか長女の夫内縁の妻その兄夫婦の前で自分にもしものことがあったら内縁の妻に本件建物をやりそこに死ぬまでそのまま住まわせて1500万円を渡してほしい旨申し渡しているなどの事情から黙示的に内縁の妻が死亡するまで本件建物を無償で使用させる旨の本件使用貸借契約が成立していたものと認めるのが相当であるとして本件明渡請求を棄却した(なお本判決は使用貸借契約の書面化をしていなかった点につき内縁の夫が長女側に何回もその旨の意向を伝え長女もその意向を認識していたのであえて書面化まで必要であると考えていなかったとしても格別不合理ではないなどと判示)。
   本判決は原判決(神戸地判平成22年10月21日判時2108号77頁)が使用貸借契約の存在を否定して権利濫用の法理を適用して明渡請求を棄却したのに対し権利濫用の法理に委ねることなく内縁の妻の死亡までの使用貸借契約の存在を認めたものです。

3.上記裁判例及び本設問の各検討

   本設問のような事例上記③の事例のように内縁の夫婦間に明確な使用貸借の合意が認められない限り(同契約書を作成しておくか相続人側にも使用貸借契約の成立を明確に伝えることが必要である。)使用貸借契約の成立の認定は難しいといえます。但し内縁関係が長期間に及ぶ場合は権利濫用の法理によって相続人の家屋明渡請求が否定されることになります。
   本設問では内縁の夫婦間に使用貸借などの契約書の取り交わしや使用貸借の合意が認められないので使用貸借契約の成立を認めるのは困難ですが20年にわたって同居していたので内縁の妻の居住の必要性等を考慮し権利濫用の法理によって相続人の家屋明渡請求を拒むことができる場合があると考えられます。
   なお権利濫用の法理が適用される場合において内縁の妻が今後居住できる期間が問題となりますが結局は同居期間内縁の妻の居住の必要性・居住を必要とする期間居住家屋の使用の目的・方法相続人の家屋使用の必要性等の諸事情を総合的に判断して決められるものと思われます(使用貸借の期間につき最判平成11年2月25日判時1670号18頁参照)。このようなケースの解決法として相続人が内縁の妻の承諾を得て本件家屋及びその敷地を売却しその売却金の一部を内縁の妻に立退費用等として交付することも考えられます。
   ちなみに遺産分割前の遺産共有の事案において共同相続人の1人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人と同居してきた場合は特段の事情のない限り被相続人死亡時から少なくとも遺産分割終了までの間は被相続人の地位を承継した他の相続人を貸主同居相続人を借主とする建物の使用貸借契約が存続するとした裁判例があります(最判平成8年12月17日民集50巻10号2778頁)。しかし内縁の妻の居住保護の観点からこの裁判例が本設問のような事例に直接適用されるとは思われません。
以上


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研究紹介6相続人が遺産から葬儀費用や仏壇・墓石購入費に充てた後に相続の放棄はできなくなってしまうのか?


(設問)

   父死亡後1か月間内において父の唯一の遺産である銀行預金約300万円から父の葬儀費用として約200万円仏壇購入費として約100万円(合計300万円)を支出しました。ところが3日前(父死亡の2年後)にA銀行から突然父が生前父の友人がA銀行から700万円も融資を受けた際にその連帯保証人になっていたので700万円の支払をしてほしい旨の請求の通知が来ました。今から相続放棄の手続をとることができるだろうか。

(答え)

   本来、相続放棄は、被相続人の死亡を知った時から3か月以内にする必要があります。また、相続財産から支出してしまうと本来「相続財産の処分」(民法921条1号)にあたり、放棄ができなくなってしまうのが原則ですので、ご注意下さい。
   但し、本件は、父親にこのような多額の借金があることが分からかなったこと、相続人が遺産である銀行預金の解約金から葬儀や仏壇購入に充てた費用の額がいずれも社会的にみて不相当に高額のものともいず民法921条1号の「相続財産の処分」には当たるとまではいえないと思いますのでA銀行から700万円の請求通知を受けた時から3か月以内であれば相続放棄の申述をすることが可能であると考えられます。
   なお香典は相続財産(遺産)には含まれないとするのが通説です。

(解説)

1.相続の単純承認と放棄について

(1)相続の単純承認と������と���
  1. 相続の単純承認とは相続人が被相続人の権利義務を全面的に承継することを内容として相続を承認する相続形態をいいます(民法920条)。単純承認は無条件・包括的になされる必要がありその一部を承認したりまた条件や期限を付すことはできません。

  2. 相続の放棄とは相続人が相続の開始によって不確定的に生じた相続の効果を確定的に拒否し初めから相続人でなかった効果を生じさせる相続形態をいいます(民法938条)。放棄も単純承認同様に無条件・包括的になされる必要があり一部を放棄したりまた条件や期限を付すことはできません。
(2)相続の承認又は放棄のための熟慮期間(原則3か月)
   相続の承認又は放棄は原則として相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にされなければなりません(民法915条1項)。この3か月の期間は相続人が承認及び放棄のための熟慮期間であると同時に相続財産の調査期間(民法915条2項)です。ただし上記3か月の熟慮期間は利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所がこれを伸長することができます(民法915条1項ただし書)。

(3)法定単純承認行為
  1. 相続人は以下のような場合には単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号~3号。法定単純承認)。
    相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(ただし保存行為及び短期賃貸借をするときは除く。)(1号)
    相続人が民法915条1項の熟慮期間内に限定承認又は放棄をしなかったとき(2号)
    ③相続人が限定承認又は放棄をした後でも相続財産の全部又は一部を隠匿し相続債権者等に損害を与えることを知りながらこれを消費・処分し又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかったとき(ただしその相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は除く。)(3号)

  2. したがって本件法律相談のように被相続人の遺産から葬儀費用や仏壇購入費を支払った場合には形式上①民法921条1号の「相続財産の処分」に当たりまた②民法915条1項の3か月の熟慮期間内に相続の放棄をしなかったとき(民法921条2号)に当たり相談者(相続人)はもはや相続の放棄ができないのではないかという疑問が生じます。

2.本件に関する検討

(1)同種の裁判例の紹介
  1. 本件相談に関連する裁判例として大阪高裁平成14年7月3日決定(家裁月報55巻1号82頁。以下「本大阪高裁決定」という。)があります。

  2. 本大阪高裁決定の事案の概要は以下のとおりです。
    (ア) 香典として144万円を受領しまた被相続人名義で預入金額300万円の郵便貯金(本件貯金)があり、被相続人の葬儀費用等として約273万円、仏壇を約93万円墓石を約127万円で購入し不足分46万円余りは上記妻子が自己負担した。
    (イ) その後3年が経過したときに、Y信用保証協会から突然被相続人宛てに保証債務の返済金等約5900万円の残高通知を受けた。そこで上記妻子(相続人)は当該残高通知を受けた時点から3か月以内に相続放棄の申述をした。

  3. 本大阪高裁決定は原審判が上記妻子の相続放棄の申述を却下したのに対し以下(決定要旨)のとおり原審判を取り消して上記妻子の相続放棄の申述を受理しました。
    (ア) 相続財産の葬儀費用への充当について
       相続財産をもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。したがって相続財産から葬儀費用を支出する行為は民法921条1号の「相続財産の処分」には当たらない。
    (イ) 相続財産の仏壇・墓石購入費用への充当について
       上記妻子が購入した仏壇及び墓石はいずれも社会的にみて不相当に高額のものともいえない上一部は自己負担している。以上によれば相続財産から仏壇・墓石の購入費用の一部に充てた行為は明白に民法921条1号の「相続財産の処分」には当たるとは断定できない。
    (ウ) 相続放棄の申述期間の起算点について
    ①相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に相続の放棄等をしなければならない。そして相続人が相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に相続放棄等をしなかったのが相続財産が存在しないと信じたためでありかつこのように信ずるについて相当の理由がある場合には民法915条1項所定の期間は相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である(最判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁参照)。
    ②上記妻子が相続債務があることを知ったのは前記Y信用保証協会からの残高通知書に接した時でありそれまで相続債務がないと信じたことはやむを得ないこというべきであり民法915条1項所定の期間は上記妻子がY信用保証協会からの残高通知書に接した時から起算すべきであり上記妻子の相続放棄の申述は民法915条1項所定の期間を経過した後のものとはいえない。
    (エ) これらの根拠に、上記判例においては、相続放棄を受理しました。

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研究紹介7長男の妻が父親の面倒をみていた場合に、その分長男が法定相続分以上の財産を相続することができるだろうか


(設問)

   父(長男の父)をその生前10年間にわたり入院先の病院で付添いをしたり自宅で入浴や食事の世話のほか日常の細々とした介護を行っていた場合長男は父の相続財産を相続する場合に、妻の介護分だけ多く相続することができるか。
   なお、他に相続人は長男の弟(二男)がおりまた父の遺言はないことを前提にします。

(答え)

   介護分が寄与分として認められれば、法定相続分より多く相続できます。一般に寄与分が認められる場合とは、介護を要する状態で、親族の扶養義務の範囲を超えるような形態の介護を行った場合など特別な寄与があったといえる場合でないと原則���めら���ません���
   なお東京高裁平成22年9月13日決定は長男の妻が長男の履行補助者として看護や介護をしているという法律構成により長男の寄与分を認定しています。

(解説)

寄与分制度の概略(寄与分の主張は相続人に限る。)
   寄与分制度は被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加に「特別の寄与(貢献)」をした相続人に対して遺産の分割に当たって法定又は指定相続分にかかわらず遺産のうちから寄与に相当する額の財産を取得させることによって共同相続人間の公平を図ろうとするものです(民法904条の2第1項)。
   寄与の方法としては民法904条の2第1項は「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付被相続人の療養看護その他の方法」を挙げています。
   そしてこれらの方法により被相続人の財産の維持又は増加に「特別の寄与(貢献)」をした相続人があるときは①寄与分を金銭的に評価しこれを寄与した相続人に取得させかつ②その評価額を相続財産から控除したものを相続財産とみなしこの「みなし相続財産」を基礎として各相続人の相続分を算定します。寄与の主な方法を挙げると以下のようになります。
  1. 被相続人の事業に関する労務の提供(家業従事型)の例
       相続人が被相続人の事業である農業や自家営業(医師弁護士税理士司法書士等)に無給又はこれに近い状態で従事する場合が挙げられます。

  2. 被相続人の事業に関する財産上の給付(金銭等出資型)の例
       相続人が自己の資金を提供して被相続人の事業に関する借金を代位弁済したり被相続人名義で事業用の財産を取得するなどして被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与した場合が挙げられます。

  3. 被相続人の療養看護(療養看護型)の例
       被相続人が病気・老齢等の理由により身体的・精神的に看護が必要である場合に特定の相続人が長年その看護に従事したことにより看護費用の支出を免れるなどして被相続人の財産の維持に貢献したような場合が挙げられます。
   本件は、上記2(2)ウの被相続人の療養看護(療養看護型)の問題であり長男の妻の義父に対する介護がどのような場合に長男の寄与分として主張できるかが問題となります。
   この点につき裁判例では簡単には「特別の寄与」を認めず一般に親の入院時の世話や通院の付き添いは同居親族の相互扶助の範囲内(親族の扶養義務の範囲内)であるのでこれだけでは足りずこれにより介護費用の支出を免れ財産維持に貢献したと認められる場合でなければ「特別の寄与」があったとはいえないとしています(大阪家裁堺支部審平成18年3月22日家月58巻10号84頁参照)。
   特別の寄与を認めた東京高裁平成22年9月13日決定(家月63巻6号82頁)は長男の妻による被相続人の入院中の看護の一部や死亡直前半年間の介護(毎晩失禁の状態)は家政婦などを雇って当たらせることを相当とする事情の下で行われその余の介護も13年余りの長期間にわたって継続して行われたものであって長男の妻による長男の履行補助者としての上記看護や介護は同居の親族の扶養義務の範囲を超えて相続財産の維持に貢献したと評価することができるとして当該療養看護の寄与分として200万円を認定しています(同内容の審判例として東京家審平成12年3月8日家月52巻8号35頁参照)。
   本件についてもこのような観点から特別の寄与があったどうか判断されることになりますが一般に介護を要する状態で親族の扶養義務の範囲を超えるような形態の介護を行った場合に初めて特別の寄与があったと判断されるものと考えられます。
   なお上記東京高裁平成22年9月13日決定は長男の妻が長男の履行補助者として看護や介護をしているという法律構成により長男の寄与分を認定しています。
   ところで寄与分は被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から「遺贈の価額」を控除した額を超えることはできない(民法904条の2第3項)とされていることから被相続人が相続財産の分配方法をすべて遺言で指定しておけば寄与分が機能する余地はないことになりますので、ご注意下さい。

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